ビジネスをデザインする仕事|最大手企業のビッグデータを活用し、世の中を循環させる

金融、人事、マーケティングなど多様な分野での経験を持ちながら、長年にわたり蓄積してきた自社のデータベースとノウハウを活かし、 企業や社会における課題解決をコーディネートしている中川みゆきさん。日々、データを活用して新たな価値を生み出すためのビジネスをデザインしている彼女のルーツをお聞きしました。

中川 みゆき 
営業推進部 アカウントマネジメントチーム アシスタントマネジャー
兼 データソリューション企画部総合研究所 副課長(WiDS担当) 

旧日興証券(現SMBC日興証券)でコンサルティング・営業を経験後、帝国データバンクに入社。産業調査部門、研究部門、人事部門に従事し、市場調査、自治体でのEBPM研修、企業年金制度や再雇用制度などの制度改革、健康経営施策の導入、マネー・ライフプラン関連の従業員向けアドバイザリーを手掛け、人事制度改革から地方創生まで多様な分野に携わる。現在は、経営戦略プロジェクトチームとデータソリューション企画部門(研究部門)を兼務し、自社データを含めたデータ活用推進とデータ活用による課題解決の活動にあたる傍ら、複合的な職歴を活かして、金融系イベントやデータサイエンス系イベントでの講演を担う。

仕事内容

帝国データバンクといえば、企業情報データベースとして国内最大級。データの可用性を見出すデータサイエンスの領域とはとても親和性の高い分野ですが、中川様は現在どのような仕事に関わられているのですか?

現在は、帝国データバンクがもつ企業データを活用して、企業や社会における課題解決をサポートするコーディネーターの役割を担っています。社内のデータスペシャリストとの連携や社外とのアライアンスによって、データを活用して新たな価値を生み出すためのビジネスデザインをするのが私の仕事です。
データを共通言語として、ビジネス上のステークホルダーのベクトル統一を図り、さらにステークホルダー同士をネットワーキングすることで、企業・社会の課題解決にデータ活用を取り込む支援をしています。

マーケティング領域では、企業データに加えてそれぞれの社内情報やオープン情報を掛け合わせ、仮説や戦略策定のストーリー考案なども行なっています。
最近はさまざまな分野・業種からのご相談が増えており、あらゆる方面やビジネスの様々な局面でデータサイエンスが必要とされていることを日々実感しています。

データサイエンスの面白みはどのような点だとお考えですか?

私見ですが、データサイエンスはその創造性がアートに似ていると感じています。特に今後は社会の変革を背景に、既存の常識や枠に捕らわれない組み合わせやデザインによる実用的なアイディア創出がデータサイエンスに求められると考えています。

データという素材を表現したいもの(ビジネスでは活用目的)に沿ってデザインする過程に、生みの苦しみと並行して創造の楽しさがあり、また、データサイエンスの場合は様々な知能を掛け合わせてチームワークで創作活動を行なうことに、正解が無いものを協働作業で創り出す面白味があるのではないでしょうか。
データサイエンスが単なるテクノロジーと一線を画すのは、このような要素を強く帯びていることに加え、現実・実用の局面への実践を後押しする役割が強く求められているからだと思います。

データサイエンスの魅力は、想定したり仮説を立てていたものが思わぬ形で裏付けられた時の新鮮味、勘と経験で蓄積してきたものと違う結果が見えた時の発掘感、そしてデータを共通言語として意思疎通を図ってきたステークホルダー間でデータを介して認識やストーリーが一致した時の一体感とそこから生まれる実践力などの実感が、異分野の掛け合わせや多様性の融合の結果として象徴的に出現した時に、達成感や充足感を伴う形で発揮されると思います。

ビジネスにおけるデータサイエンス活用にどのような可能性を感じていますか?

ビジネスにおいてデータサイエンスは、イノベーションやアイディア創出の原動力になると感じます。データサイエンスがアート的であり単なるテクノロジーと一線を画す要素を持つ故に、その可能性を秘めていると考えています。

特に昨今の、未曽有の事態への柔軟な適応が求められ、過去の経験則による判断に頼れないビジネス環境においては、先入観を覆し、業界・分野・国境などの枠組みを超えた複合的な知能の交流によりイノベーションやアイディア創出を促進し、新たな付加価値を生み出すことが必要とされます。
この創造過程においてデータサイエンスは、根拠や判断基準を提供して意思決定を促し、トライアンドエラーにより学習強化をしていく手助けになると感じています。

そして人間が、融合した知能に基づく創意工夫により、テクノロジーなどのマシンインテリジェンスに対してリーダーシップを取ることで、データサイエンスがビジネスでの活用につながり、その実用性によって相互に発展性を増していくと思います。

セミナー登壇の様子

これまでのご経験の中で、思い出深いエピソードを教えて下さい

特に印象深かった事例が二つあります。
一つは、現職の会社で「ビッグデータで選ぶ地域を支える企業」という本を製作した事例です。企業間取引ネットワークを可視化して抽出した、取引の中心にいて地域に資金循環をもたらす機能を持った企業(地域未来牽引企業)を取材し、取引構造に内包されたビジネスモデルや経営戦略をデータとの照合により紐解く試みでした。

取材で詳細が判明した、経営者が創業来引き継いできたビジネスモデルとその歴史を、可視化したデータと照合した際に、企業が積み上げてきた歩みをビジュアライズデータが裏付けているのを見て、経営者や従業員、 地域の自治体の方共々感激したことが強く印象に残っています。

もう一つは、データサイエンスを意識していない時期に、現職の会社に健康経営施策を導入しようと奮起していた時の試みです。
当時、従業員のマネー・ライフプランのアドバイザリーや、メンタルヘルス施策、再雇用を含めたキャリア形成、企業年金制度改革など人事部門にて複数分野に従事しており、従業員のエンゲージメント向上にとって何がインパクトになるのかを模索していました。

インパクト要因にフォーカスして施策を打てば、エンゲージメント向上につながると考え、従業員アンケートや人事データ、社外データを見ていているうちに、ライフ・ヘルス・キャリア間に影響しあう要因が存在している事に気づき、時系列変化をデータとして追えるように要因を項目化し、各観点からこれらの要因と向き合う研修を導入、研修アンケートという形で従業員のエンゲージメントの変化を追う試みでした。

異動によりその後を追い切れていませんが、今振り返るとデータサイエンスが寄与する余地の多い取り組みであったと感じます。

学習方法

最近は、データサイエンスに関する勉強に取り組む方がとても増えていますが、中川様はどのようにしてデータサイエンスを学ばれたのでしょうか?

私の場合は社会に出てから、ビジネス上の実務を通してデータサイエンスを学びました。大学の専攻は商学・経営学で、金融に強く興味を抱き金融機関に就職しました。金融マーケットのデータに日々触れるため、データの読み方など実務経験からデータサイエンスに関する知識を得ることが多かったです。

現職では、従事してきた産業調査部門・研究部門・人事部門で市場データや人事データを取り扱っていましたので、データが示す結果をどう読むべきかに加え、それを実務にどう活かすかの2点を特に意識し、経営学の視点でデータ利活用・データマネジメント、データドリブンマーケティングを、一方で、実用化の視点でビジネスフレームワーク、アイディアの作り方、デザイン思考などを文献や講演・セミナー等を通じて学んでいます。

自身がカバーできていないテクニカル的な知識領域については、協会資料や文献、講演・セミナー、社内外のデータスペシャリストとの交流などを通じて学んでいます。 

データサイエンスに興味をもった、または目指すと決めたきっかけ(ルーツ)はどのようなものだったのでしょうか?

きっかけ到来のタイミングとして、これまでのキャリアと、SDGsの概念、データサイエンスの3つが出合うタイミングが絶妙であったと感じています。U理論的な巡り合いです。

データサイエンス自体を意識したきっかけは、現職で人事部門から研究部門に移り、企業間取引ネットワーク分析やRESAS(https://resas.go.jp/#/13/13101)の活用促進に携わったことです。それ以前は、各分野の業務でデータに接する機会はあっても特別にデータサイエンスを意識するわけではありませんでした。データサイエンスを意識するようになってからは、自身の経験や出現する課題、社会動向や世間の事象と突き合わせ、何ができたら良いのか、そのためには何のデータがあって、どのように活用できると良いのかを考えるようになりました。

研究部門でデータサイエンス系の産学連携の取り組みに参画するようになってからは、これらを追及する思考がより強くなりました。横浜市立大学様主催のWiDS(https://wids-ycu.jp/)に参画してからSDGsの概念を詳細に知る機会が増え、SDGsの概念にこれまでの取り組み要素がほぼ内包されていると感じてからは、SDGsをテーマにデータサイエンスを考えるようになりました。

経済を循環させる金融マーケットや企業、そしてそれらを運営していく人の存在意義を、経済的側面や財務などの定量的観点だけでなく、社会的側面や社是、個人の想いのような定性的観点からも捉えることができないか、組織や社会を良くする本質的な側面を捉えて、ヒト・モノ・カネを循環させることはできないか、という課題感の中で、データサイエンスに興味関心を惹かれたと言えます。

データサイエンス領域において、今後の目標や挑戦したいことがあれば教えてください。

未知への挑戦や新たな付加価値の創出という観点では、世の中のSDGsの取り組みをデータサイエンスが促進・サポートしていくことは、相性が良いと考えます。

SDGsの課題にデータサイエンスがアプローチできれば、持続可能な社会の形成に必要な活動に向けて金融マーケットの資金を循環させることができるのでは、と期待しています。金融市場における企業評価軸は、財務など定量的なものが主体ですが、SDGsへのインパクトを測る定性的な指標が加わると良いと考えています。

ESG投資やスチュワードシップコード(*1)、アカウンタビリティ(*2)の観点においても非常に重要な観点であると感じるため、企業間取引関係をネットワーク構造として捉えるアプローチを、SDGs Compass( PDF参考資料)に記載されているバリューチェーンマッピングの観点に応用して、日本企業の強みの一つである取引関係や人脈に着眼することにより、SDGsの提唱する“持続可能な経済活動”の手助けにできるよう、模索しています。

(*1)スチュワードシップコードは、金融機関による投資先企業の経営監視など企業統治への取り組みが不十分であったことが、リーマン・ショックによる金融危機を深刻化させたとの反省に立ち、英国で2010年に金融機関を中心とした機関投資家のあるべき姿を規定したガイダンス(解釈指針)のこと。 

(*2) アカウンタビリティとは、利害関係者に対し、自分自身が権限を持って担当している内容や状況についてより詳しく説明すること。説明義務あるいは説明責任。

―中川様、貴重なお話をありがとうございました!

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