【イベントレポート】WiDS HIROSHIMA アイデアソン2020「新たなる災害対策」

2020年8月22日、広島県を中心とした主催団体によるWiDS HIROSHIMA アイデアソン2020が開催された。当初、シンポジウムは2020年3月に予定していたがコロナウイルス感染予防のため中止となった。そして一部延期とされていたプログラム「アイデアソン2020」が今回オンライン配信にて行なわれたので、その模様をレポートする。

データサイエンス人材育成のための世界的シンポジウム

Women in Data Science(WiDS)は、米国スタンフォード大学発のデータサイエンス領域における人材育成を目的とした世界的な取り組みだ。『性別に関係なくデータサイエンス分野で活躍する人材を育成する』をテーマに、現在、女性を中心に世界150ヵ所以上でイベントを開催。日本では横浜市立大学、早稲田大学、IBMなどが主体となり2019年より開催されてきた。

そして今回、西日本初となるWiDS HIROSHIMAでは、広島県・広島大学・ひろしま自動車産学官連携推進会議 広島県地方大学・地域産業創生事業推進特別委員会が主催となり開催された。本イベントのアンバサダーは、株式会社Rejoui 菅由紀子氏が務めた。

アイデアソン2020、テーマは「新たなる災害対策」

アイデアソンとは「アイデア」と「マラソン」の造語で、テーマに沿ってチームごとにアイデアを出し、結果を競うというものだ。今回のWiDS HIROSHIMA アイデアソン2020では、「新たなる災害対策」をテーマに日本全国からアイデアの提案を募った。

ここ数年、日本では毎年のように各地域での台風・地震などの自然災害により甚大な被害を受けている。こうしたテーマにおいて、災害被害の予測、救護活動や復興支援の最適化など、データ活用には大きな可能性が期待される。

全24チームの応募から、選ばれしファイナリスト7組が最終プレゼンテーションに挑んだ今回のイベントは、新型コロナウイルス感染対策の一環で、当初予定していた集合型イベントを急遽オンラインに切り替えて実施。各地からの映像を中継して配信された。

イベント当日は、審査員評価による一次審査を通過しファイナリストに選定されたチームがプレゼンテーションを行なった。リモートプレゼンという異例の開催ながらも、議論は活発に行なわれ、視聴者からも様々なコメントが寄せられた。

ファイナリスト選出チーム

プレゼンテーションの様子

各チームで取り上げられた題材は、災害時の情報共有やボランティア派遣、避難所へのアクセスなど、災害発生時の混乱を最小化するためのものが多く見られた。

中でも、こうしたテーマで特に多く取り上げられたキーワードとして、災害発生時に人々が正しい判断を行なえなくなる「正常性バイアス」がある。これは、大雨による河川の氾濫が危ぶまれたり、電車が止まったなどの情報を得た際に、「自分は大丈夫。何とかなる」といったように、自分にとって都合の悪い情報を受け入れない心理状態を指す。災害時には、こうした心理状態がより被害を甚大にすることがある。

今回のアイデアソンではこうした「ヒトによる判断」に対して、データを活用した情報提供から客観的な判断を行ない、被害を最小限に抑えるためのアイデアが多く発表された。

会場審査員のみなさん

評価は、会場審査員の採点に加え、一般視聴者からのオンライン投票結果を加算して行なわれた。当日プレゼンテーションをした全7チームのうち、区分別の優勝チームは以下の結果となった。

優勝チーム紹介

高校生の部 優勝
「南海トラフ地震に備えて」(愛媛県立松山南高等学校)

  • 30年以内に起こる可能性が高いとされる「南海トラフ地震」に備え、避難所情報を明確化し、情報発信に備える。
  • 統計GISに避難所情報をプロットしたところ、松山市中心部では3人に1人は避難受入れが難しいという現状がわかった。
  • 避難所・診療所の密集エリア、不足エリアを把握し、指定避難所と診療所の配置を新提案する。
  • 増加傾向にある訪日外国人の状況を踏まえ、観光地に情報伝達するための基盤をつくる。(言語対応した災害マニュアル、外国語ボランティアなど)
  • 言語に依存しない視覚情報として「ピクトグラム」を使った情報伝達、意思疎通方法の提案。

大学生の部 優勝アンバサダー特別賞受賞 (一般・大学生から選出)
「ボランティアマッチングシステム ボラ×マッチ」日曜日の襖(所属:広島大学 工学部)

  • 報道情報データ収集の結果、ボランティアは件数は報道数に依存してエリアに偏りがあることがわかる。
  • 被災側の情報とボランティアをマッチングさせ、適切な場所に適切な人数・人材を派遣する仕組みを提案。
  • ボランティアの能力や対応可能業務をデータ化し、マッチング精度を上げる、運営を円滑化する。

一般の部 優勝
「Personal Hazard Map~災害時データ表示環境~」
中華定食(所属:富士通九州ネットワークテクノロジーズ株式会社 広島事業所)

  • 突発的に起きる災害に際し、人々が緊急時に判断するために必要な情報・行動指針を見える化する。
  • 行政データ、利用者データなどを収集し、マッピングにより危険地域が一目で判断できる可視化システムを提案。
  • 今後も起こりうる災害に対して、持続可能性を加味したAIを搭載。個人と行政のデータを重ね、「非日常の見える化」を実現する。

プレゼンテーションの様子

イベントを終えて

今回のアイデアソンは「災害」という、いつでも誰にでも起こりうる突然の事象に対して、過去の経験・客観データを用いていかに汎用性のあるものに組み換えるか、という視点で提案されたアイデアが多く見られた。

経験だけではなく、客観的なデータをもとに発見された課題を、さらにデータを活用して解決する。これらを実現すれば多くの人の安全を守るライフラインにもなりうる。こうした視点を、実際のものづくりにも取り入れ、より合理的に広範囲で、人々の安全を守るサービスにつながることが今後は期待される。

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